全仏オープン加藤未唯選手失格処分を考える

加藤未唯選手失格処分(テニス「全仏オープン」女子ダブルス3回戦)について考えます。起こった出来事についてはyahooニュースなどに詳しく書かれていますので、ご覧ください。私はテニスにも詳しくなく、スポーツマンシップについてもわからないので、経営のヒントとして感じたことについて考えていくことにします。

1.人事マネジメントとして

大会運営者と出場選手は、雇用関係にあるわけでも、上下関係でもありませんが、今回の決定「失格」「賞金の剥奪」は企業内人事における「解雇」「減給」と似た性質を持つということが考えられます。人事権の行使でいえば、最も重大な2つの決定です。
この様な重大な決定を行う際には極めて慎重であることが要求されます。しかし、判定が覆った根拠は「泣き続けているから重大なことだったのだろう」という推定でしかないように見えます。決定までの一部始終を見ているわけではないので、断定はできないのですが、ボールパーソンへの聞き取りは行われたのでしょうか。人は痛さのみで泣くのでしょうか。自分が泣くことでおおごとになってしまい、パニックになってしうことが泣き続ける原因ではないかと想像することもできたのではないでしょうか。また、加藤選手が後に判定を不服として提訴したことからみると、彼女への説明もきちんとなされていないことが伺えます。もちろん企業内人事とは違い、関係者の気持ちに配慮する必要はないのでしょう。しかし、そもそも事実を確認した主審による裁定が覆されるきっかけが、相手選手の抗議という(気持ちの要素が多分に含まれやすい)現状確認要請だったことを考えると、一方の気持ちのみが多分に反映されてしまっている気がします。人事上の決定であれば労働基準監督署が関わる余地のある問題です。そして、人事の問題であれば気持ちへの配慮が更に重要であることは間違いありません。

2.危機管理の問題

労働事件だとすると、事業者側は正当な判断であることを立証する必要があります。失格裁定後の運営側の発表は「正しかった」という主張は明確なのですが、根拠が脆弱に見えます。加藤選手側のビデオを確認してほしいという要望について「見ることはできない」との回答があったようですが、その理由さえ不明です。今回調べて驚いたのですが、大相撲ではすでに60年代からビデオ判定が導入されているということです。主審以外の現場を見ていない2人の関係者が判定を覆したようですが、(企業であれば)訴訟につながるような、そして従業員の人生に関わるような重大な決定が脆弱な根拠をもとに行われることは大変危険なものと思われます。危機管理対策として、ビデオ確認・聞き取りなどの手順を定めておく必要があったと思われます。

3.情報管理の問題

前述のようにビデオが使われなかったということは、情報の積極的な活用がなされなかったと言えます。また、yahooニュースにあるように選手用のビデオの公開がされなかったこと、記者会見を中止させたことは情報公開に対する消極性(臭いものには蓋)であり、悪手といえます。裁定は正しかったと主張するのであれば、積極的に公開するべきでした。

4.ブランドとして

裁定そのものに加え、このような経緯をたどることにより運営者のブランドは大きく傷つきました。その後、加藤選手は混合ダブルスで優勝を勝ち取りました。優勝のスピーチで「本来は失格になったので参加できないところを運営側の配慮で参加できてうれしい。」との言及があったようです。この言葉に悪意はなかったと思われますし、運営側も懐の広さをアピールできて救われた言葉と捉えたかもしれませんが、よく考えてみれば、この状況で参加許可を出したということは運営側がグレー裁定であることを認めてしまっていることにもなります。残念ながらこのスピーチで大会のブランドが救われたとはいえないでしょう。
一方、加藤選手の方は謝意を表明した度量の大きさ、絶望からメンタルを切り替えた能力の高さなどが加わり、何事もなく優勝した場合よりも大きくブランドを向上させることができたと言えそうです。

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