マーケティング用語は難しい
「マーケティング」に壁を感じる原因の一つは、用語の難しさにあるのではないでしょうか。
米国発のアイデアが多いマーケティングでは、当然カタカナが多くなりますし、頭文字で略されると更に分かりにくくなります。日本語になっているものもありますが、文脈で異なる意味となる言葉、話者により違う意味をもたせられやすい言葉などもあることが、さらに混乱の元となります。これはマーケティングにとどまらず経営学で使われる言葉全般に見られる傾向です。
経営関連の学部での講義などでは、原典に近い言葉を使っていますが、他の場合には、できるだけわかり易く言い換えるようにしています。
とはいえ、マーケティングを理解してもらう上で、どうしても理解してほしい概念があります。例えば、「ターゲット層」と「ペルソナ」の2つは、その違いも含めて解説することで初めて対象顧客の絞り込み方、活用の仕方が理解できるのではないかと思います。来月には、自治体主催の勉強会で、創業を目指す市民の方に向けての講義を行うのですが、こういった言葉については、頑張って理解してもらうようお願いをしています。
このような必須単語としてニーズ、バリュー(顧客価値)が挙げられます。
マーケティングの本質が「ニーズに応えるバリューを創造し、適切に届けること」である以上、この2つの概念はしっかり理解していただきたいと思っています。これらの言葉を理解して、マーケティングの感覚をつかんでもらうために、私は次のような図で説明しています。
ニーズ
「ニーズ」が、あまりにも一般的に使われることが、その意味の正しい(マーケティング用語として)理解を難しくしているように感じます。ニーズは図中のウォンツと比較して考えることで、その意味の広がりに気づきます。
ウォンツとは「具体的な商品に対する要求」、ニーズはそれを必要とする理由である「欠乏した状態」であると言えます。マーケティングの講義で多用される例としてはドリルがあります。
工具店を訪れるお客様のウォンツは、例えば1/4インチのビット(穴を開ける先端金具)とそれを使用できる電動ドリルです。しかし、お客様が本当に必要としているのは1/4インチサイズの穴であり、これこそがニーズなのです。
ではなぜ、1/4インチの穴が必要なのでしょうか。壁に穴を開けて帽子掛のフックを取り付けたいのかもしれません。なぜ、防止を壁にかけたいのかというと、大変価値のある帽子を陳列したいのかもしれません。
この場合、複数のニーズがあることになります。それは並列的なものでなく、表面的なニーズ・深層のニーズと言う関係になっています。
ニーズは多くの場合、このように何層も深掘りできるようになっています。ウォンツを最も表面にあるニーズと捉えることもできます。しかし、ニーズは、少し深掘りして考えることが重要です。
1/4インチドリルセットをニーズとして捉えてしまうと、対抗するためには同じ商品を作らざるを得ず、価格競争に陥るリスクが高まります。
穴がニーズであれば、材料を焼き切ることができるレーザーガンも考えられますし、深いニーズに着目すれば帽子スタンドや陳列ケースを開発することも可能になります。
バリュー
バリューは、ファーストフードのセットメニューなどで「お得」というニュアンスで使われています。マーケティングではお客様が感じる価値という意味で使います。
私達は商品の価格・必要性と価値を比べて買うかどうかを決めるわけですが、価値の評価は商品の性質・量だけではありません。誰から買うか・買いやすさ・買うときの店の雰囲気・ブランドなども一緒に考えます。これらの全体像のことを価値(バリュー)というのです。
また、「提供者が考える価値」ではなく「お客様が感じる価値」であることも重要です。顧客主語であるため、100%コントロールすることはできませんが、少しでも高い価値を感じてもらえるように様々なことを考え、デザインしていかなければなりません。そのよりどころがニーズなのです。
マーケティングでは上のラインを考える
図はウォンツに応えるのが商品・サービス、ニーズに応えるのがバリューであることを示したものです。(本投稿のテーマから外れるので、ここではシーズについては事業者側、対象顧客はお客様側という解説にとどめておきます。)
下のラインは同じような商品を売る競争の厳しいビジネスを表しており、お客様の本当のニーズに正しく応えることも考慮されていません。この図で私が訴えたいのは、マーケティングでは上のラインをより真剣に考える必要があるということです。
商品・サービスは目に見えます。ウォンツもその商品への要望と考えれば把握することは容易です。それに比べてニーズは、明確にわかるものでありません。ときには、お客様自身でさえ、気づいていないことがあるからです。
バリューはさらに霧の中で、周辺の治安が悪いなどのコントロール不可能な要素までが入ってきます。
それだけに上のラインを考えることは難しいことですが、競争を抜け出し、よりお客様に満足していただくには、これにチャレンジしなければならないのです。
どんなキャンペーンを打つか、SNSをどう活用するかという具体的な方法論のほうが、研修内容としてはウケが良いのでしょうが、私のマーケティング研修では基礎の基礎として、この図は外せません。
マーケティング研修、お気軽にご相談ください。
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