最も大事な経営資源であるヒトの価値を高めるためには、適正な配置・モチベーションを下げない処遇・コミュニケーション環境を含む風土づくり・効率を高める権限委譲と並んで、人材育成が欠かせません。
人材育成の重要な要素である社員教育について、全く取り組んでいないという企業はないと思われますが、十分効果が上がっているとはいえない企業もあるようです。社員教育にはどのように取り組んだらいいのでしょうか。
1 HRD全体を考える
人材育成についてはHRD(Human Resource Development 人的資源開発)という言葉で語られますが、HRDの要素について、私なりにまとめると次の図のようになります。
一般的に社員教育というと、図中の基礎水準の確保・期待能力の教育の範囲になるでしょう。しかし、社員教育にどう取り組むかを考えるために、一度HRD全体を見直したほうが、よりよい結果を生むと考えています。
量の確保によって組織に一定の余裕がなければ、社員教育は進めませんし、能力向上支援によって新しい見識・世界観が社内に持ち込まれることで、教育による目標設定がより洗練されたものとなります。基礎水準の設定では、継続的支援の仕組みやタレントの発掘方法を盛り込む必要があります。
(基礎水準の確保・期待能力の教育以外の考え方については、別な記事で取り上げる予定です。)
2 アリバイ作りで終わらない
HRDの成否が業績に影響することは多くの研究から明らかになっていますが、個別企業において直接財務数値に現れることは少ないため、社員教育については多くのアリバイ作りが行われています。要するに「結果に結びついているかは証明できないが、社員教育はしている」というものです。
2.1 OJT教育
社員教育について尋ねられると、多くの企業がOJTで行っていると回答します。残念ながらほとんどの場合、社員教育についてなんのポリシーもないことの裏返しです。OJT教育のほとんどが無計画に行われていることが予想されます。
OJT教育は現場の業務を覚えるためには必須ですし、受ける側の参加意識も高くなりやすいため、適切に実施すれば効果が高いことに異論はありません。しかし、場当たり的なOJT教育がアリバイとして認められるようでは、人材育成は望めません。
2.2 上向き・内向き・後ろ向きの階層研修
新入社員や新管理職向けの研修で、社長を始めとする社内のエライ人の訓示が中心となるものがあります。ためになることもありますが、エライ人が気持ちよくなる程度の効果(上向き)しかないものも少なくありません。それでも研修担当者としてのアリバイ作りの効果は高いのが、この類の研修の恐ろしいところです。
また、こういった研修では社外の非常識である社内の常識を教えたり(内向き)、過去の研修内容との整合性にこだわったり(後ろ向き)することもあり、教育効果が低いものになることもあります。
2.3 研修業者のオススメ教育
流行りのカタカナを並べた研修を売り込んでくる研修業者がいます。かと思えば、まるで時代遅れに見える根性研修をウリにしている業者もいます。研修担当者にしてみれば、どちらであっても外部に委託することでわかりやすく予算を消化することができ、そのうえ手をわずらわせることなく見栄えのいい報告書まで手に入るためアリバイ作りにはもってこいです。
しかし、安易にオススメに飛びつくことは避けなければなりません。業種・業務内容・社風によって、目指すべき社員教育のゴールが異なってくるからです。外部講師による研修を検討するのであれば「当社にとって」必要な研修を考える見識のある業者を選んだ上で、丁寧にゴールを設定する協働作業から始めなければなりません。
3 目的を設定する
ゴールの設定は、社内で行う教育でも重要なものです。そして、ゴールを設定するためには、それぞれの研修や教育コースの根底に流れる社員教育の目的を決めなければなりません。
上位概念からいえば、経営理念があり、その下にHRDポリシーがあり、さらに目指すべき組織のありかた(力)や、期待される個人の能力を明らかにすることになります。この期待される個人の能力が社員教育の目的となるものです。
今回は社員教育を考える際に、目先のアイテムからではなく俯瞰的な視線で考える必要があること、アリバイ作りで良しとせず教育目的を設定する必要があることを説明してきました。
次回は、教育目的を設定する際のポイントや、具体的な方法の提案を行います。
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