前回の記事では、HRD全体を考える。アリバイ作りで終わらない。目的を設定する。というキーワードでお話をしました。今回はその他の社員教育をデザインするためのキーワードを見ていきます。
1 効率性
最初のキーワードは効率性です。現在は、様々な外部資源・能力・サービスが活用できます。何十万人の正社員や数十の事業を持つコングロマリットでなければ、社外まで含めてHRDを考えることが効率的です。
機能を社内に維持するかアウトソーシングするかは、①その機能が自社のコアコンピタンス(競争力の源泉となり、会社の独自性を引き立たせる能力や資源)に関連しているか、②ブランドや文化に大きな影響を与えているか、③社内外のどちらに置けばコストがより低くなるかなどの基準で判断しますが、①②の機能については社員に期待する内容が明確にしやすく、教育も効率的に行われる可能性が高まります。③について判断するときにも、人件費や目に見える経費だけでなく、教育コストを加味して考えることが重要です。
もう一つの効率性は、個別の教育プログラムに関連するものです。特にOJT教育においては、事前にプログラム設計がなされないことも多く、ムダやムラが生じていることも多いのではないでしょうか。
ファーストフードの大きなチェーン店で行われているような、体系だった教育はぜひとも参考にしたいものです。画一的、マニュアル通りと批判されることもありますが、一定品質のオペレーションが短期間でできるようになる様子は見事です。「3年目から一人前」などと言っているうちにホワイトカラーの生産性が見事に下がってしまった日本的な企業は謙虚に見習うべきです。
2 測定可能性
研修時間や研修費の報告でアリバイが成立してしまうことも、残念ながらあります。このような稚拙なアリバイ作りが成立してしまう企業では、教育担当者ではなく経営レベルで、アリバイ探しをしていることになります。
多くの仕事で計画と実績の差が成果で測られます。KPIとして最終成果に至る前の途中経過が数値として使われることはありますが、そのKPIと最終成果の間に相関関係がないと分かれば、別な指標に変更されるべきです。
社員教育についても全く同じです。結果は測ることのできるものでなければなりませんし、経営に利する最終成果を生むものでなければなりません。
一見定性的なものであっても構いません。発想力を高めるという目的であれば、会議で出たアイデアの数で測る事もできますし、社内の人間関係が良くなるという目的であれば、社内アンケートや離職率などで測ることができます。定性的で抽象度の高いものほど、教育の実施から結果が出るまでに時間がかかるかもしれませんが、必ず最終的な測定方法を考えておく必要があります。
3 教育対象
ここでは、社員教育の目的を考える上で、教育対象について考えます。
3.1 組織の能力
SECIモデルのような組織学習能力を高めることを考えるとき、教育対象は個人ではなく組織ということになります。組織の能力を高めるためには、制度・システム・風土などの変革とあわせて検討することになりますが、それらを活用するための社員教育も欠かすことはできません。
また、先程の例に出た人間関係はもちろんのこと、発想力なども自由なアイデア出しを妨げる組織要因の可能性を考えると、社員一人の変化で向上するものではありません。これらも組織を対象とした教育が必要となります。
3.2 個人の能力
個人の能力を対象とした教育は、配属・職位など各個人の置かれた状況によって目的を定めます。部署単位で考えるものもありますが、担当する業務の内容にフォーカスを当てて、横断的に教育を実施する場合もあります。新卒採用であれば社会人あるいは当社社員としての基礎能力というのが代表例ですが、その他にも、ヒトを管理する業務、プレゼンテーションを行う業務、個人情報を管理する業務、統計の知識を必要とする業務などの横軸で集合研修を行うことで、インフォーマルなネットワークが形成されれば、組織全体の能力向上にも繋がります。状況により集合研修ができない場合でも、できれば相談できる相手の存在を知らせたいものです。
次回は社員教育の目指すものを、目的と目標という2つのレイヤーで考えます。今回はまとめてお話しましたが、教育の対象は目的レイヤー、測定可能性は目標レイヤー、効率性は下位のプログラム選定・作成レベルで検討する課題です。
社員教育のお困りごと、ShoSup経営研究所にご相談ください。
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