社員教育 目的と目標の設定

社員教育についての3回シリーズの最終回です。3回を通じてお伝えしたいメッセージは「目的設定ありき」ということなので、今回がメインとなります。今まで漠然と目的として書いてきましたが、経営理念など高いレベルの方針に近い「目的」と、測定可能性に配慮した「目標」の2つのレイヤーにわけて考えたほうが設定が容易になります。

また、目標設定の進め方について私なりのアイデアをご提供します。

1 目的と目標

目的の設定は「活発な組織」や「強い営業力」といったように抽象度の高いものとなります。これは経営理念から降りてくるHRDポリシーの一部としてやむを得ないことであり、悪いことではありません。しかし、教育をデザインするためには効果測定が容易なレベルで目標を設定する必要があります。例えば「活発な組織」という目的から「アイデアが次々と生まれる組織」という目標を設定すれば、測定方法を検討しやすくなります。

目標に合わせて教育内容を検討する段階において、外部の教育事業者は頼もしいパートナーとなり得ます。(提供されるプログラムのゴールが目的レベルの抽象度のものであった場合、目標レベルで合致しているかを確認する必要があります。)

昔の業務システム構築は「ウチのやり方をシステムにのせる」目的で行われました。現在ではベストプラクティスとされる標準的なやり方に自社の業務を変革するツールとしてシステム構築が行われます。社員教育も同様に、社外の知恵を活用していくことが妥当でしょう。

目的から目標に変換する際には試行錯誤が必要になるかもしれません。「強い営業力」という目的のために「周囲の力を活用する」「提案の期間を短縮する」「交渉力を高める」など多くの目標の中から、いくつかに絞らなければならないからです。大きく欠けている能力、改善のインパクトが大きい能力などは、もしかしたら教育を実施してみないとわからない可能性もあります。次に目標設定の方法について提案したいと思います。

2 目標の設定方法

以下は経営理念と社内調査の2つの出発点から教育目標を設定する方法のアイデアです。

2.1 将来への期待

経営理念から展開してHRDポリシーの一部である組織の理想像と、個人の能力への期待を検討します。これらは教育によってヒトがどのようになってほしいかという将来への期待を表すものです。この段階では抽象的な目的レベルで問題ありません。このステップは理念と密接に結びついており、経営層自らが行うのが妥当でしょう。

2.2 戦略的重要性

次に現状の経営戦略・経営の状況を観察し、コアコンピタンスに関わる能力と、文化/ブランドへの影響が大きい能力を検討します。現状において育てるべき能力ということができます。これも経営層が行うのが望ましいですが、経営企画や人事のチームが議論に加わることで、教育の展開への理解が得られやすくなります。将来への期待と戦略的重要性の目的がそろったら、重複しているもの、関連性の深いものについて測定可能性を考慮した目標に展開しておきます。

ここまでが下の図の目標より上の部分に当たります。

経営理念から将来の期待と戦略的重要性を考え、社内調査とすり合わせることで目標を設定する。
経営理念と現状から教育目標を設定する(筆者作成 2023)

2.3 社内調査

図中で360度評価(期待)と表されている部分で、アンケートやピックアップした社内の人材へのヒアリングを行います。仕事を進める上で、上司・部下・他のセクションに求める能力はなにか、その中で現状不足しているものはなにか、また、自分に求められる能力や不足についても確認していきます。これらの情報から現状の社員教育の問題・課題を探っていきます。

無記名アンケートなどの方法では経営者に対する厳しい意見もあることでしょう。貴重な意見なので、自省をして、経営者自身の能力向上を検討する材料として活用しましょう。

2.4 目標のすり合わせ

経営理念から導き出したいくつかの目標について、現状(評価)と照らし合わせ、現状の評価が低いものから目標として採用します。

目標の立て方が異なるものの目的は同じであると考えられる場合は、上位からの目標を柔軟に変更することも検討します。

上位からの目標・目的で全く触れられなかったのに、社内調査で多くの人が触れている項目があったとすると、いささか厄介なことになります。経営層が現場と乖離しているために頓珍漢な能力を期待しているのか、あるいはコアコンピタンスをはじめとする経営の方向性が社内で理解されていないために無駄な努力やいさかいが社内で起きている可能性があるからです。

この場合、教育以前に社内の意識統一について何らかの手を打つ必要があります。

基本的には、上位からの目標が優先で、手をつける順序を社内調査から考えることになります。

3 急がば回れで目標を設定する。

目標設定には他の方法もあることでしょう。いずれにしてもこのように少し手間をかけて社員教育の目標を設定し、それにそって実際の教育プログラムを選定、作成していくことをおすすめします。とりあえず業者のオススメプログラムを3年やってみたけど、なんだか効果が感じられないという結末にならないために、急がば回れの考えで行きましょう。

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